愛知・名古屋特有の郷土食「なごやめし」。庶民が日頃から慣れ親しんでいる真のご当地グルメの数々は、 ここにしかない貴重な地域の食文化だ!
なごやめしを愛する名古屋在住のフリーライター。著書に『名古屋の喫茶店』など。なごやめし普及促進協議会ではアドバイザーを務める。
うんちくから本当においしいお店のガイドまで。学べて使える大竹さんのなごやめし取材の集大成。
『名古屋めし』(リベラル社・1400 円+税)
名古屋城よりも熱田神宮よりも、名古屋を訪れたらなごやめしを食べたい! 名古屋市が行った観光客・宿泊客動向調査(平成26年度)で、なごやめしの認知度は56.5%と堂々トップ。熱田神宮44.6%、東山動植物園41.7%、史跡や遺産40.7%、栄35.9%といった主要観光地をしのぎ、満足の評価も68.6%とダントツ。実際に経験した(食べた)、訪問・経験意向(目的にした)の項目でも1位。なごやめしはまぎれもなく名古屋随一の観光資源となっている。
「なごやめし」という言葉の発祥は実ははっきりしている。産みの親は名古屋の外食企業Zettonの稲本健一社長。平成13 年に東京1 号店を出店した際、看板メニューにしたのが味噌串かつや石焼ひつまぶしなど名古屋の郷土料理だった。取材に来た東京のマスコミがこれらをひと言で言い表せないかと思案。イタめしをもじった「ナゴめし」という案も出たが、稲本氏の「もっと分かりやすく『なごやめし』にしよう」のひと言でこの名が誕生した。
「なごやめし」は決して名古屋市の料理に限って使われる言葉ではない。愛知、さらに東海地域にまでおよぶ広域のご当地料理を指す。なごやめしの分布エリアは〝豆味噌文化圏〞とも言い換えられる。大豆と塩だけを原料とする豆味噌は生産も消費も東海地方に限定される。豆味噌の特徴は長期熟成でうまみが濃いこと。これを日々食してきた東海地域の人たちは必然的にうまみ志向となり、なごやめしはその好みに合わせて生まれたものと言える。
バリエーション豊富なのがなごやめしの大きな特徴。麺類に御飯のおかず、菓子に喫茶メニュー、酒の肴にごちそう食材、和食に中華に洋食、伝統的な郷土食から特定の店の創作料理が広く普及したものまで…。これほどたくさん地域特有の料理が存在するのは、国内では他に沖縄くらいしかないのではないだろうか。本州のど真ん中にありながら全国の中でもとびきり個性的。気軽に食の異文化体験できるのもなごやめしの魅力なのだ。
なごやめしは食事のメニューだけにとどまらない。ういろうや鬼まんじゅう、えびせんべいといった菓子類も含まれる。また喫茶店のモーニングは厳密には料理の種類ではなく主に朝の時間帯に提供されるサービスを指すが、この地域独特の食習慣がなごやめしとして認知されている。本来、名古屋限定ではないものの、名古屋流とも言える独自の進化を遂げたカレーうどん、特に好まれて食されているエビフライなども含まれる。
和食への注目度が高まる中、個性あふれる魅力で海外にもPRを図るなごやめし。 世界の人たちはどう味わったのか?
ミラノ万博で好評だったなごやめし
“食”をテーマに2015年に開催されたミラノ万博。中でも最も人気を集めた日本館で、8月4〜8日「あいち・なごやフェアinミラノ」が開かれ た。愛知県と名古屋市が共同出展し、エビ天ころきしめん、手羽先、天むす、赤だしなどをふるまった。実食した人たちの反応は「手羽先はイタリア料 理に似て慣れた味だ」「冷たいスープのアルデンテでない麺を食べるのは初めて。おいしい」と概ね好評。意外や(?)世界の人たちにも、なごやめし の魅力は好意的に受け入れられた。